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KAFTIのblogです。
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この夏に京都で展示会を見ていただき、原稿依頼をいただいた
『染織と生活社』 という出版社が毎月出している雑誌 『染色情報a』 に、
いつか載るかもしれない文章です。
あれもこれもと、詰め込みすぎて長くなってしまいましたが、
ティナラク織のことを知ってもらうには、これくらいの説明が必要なんだ、
とあらためて、この10年以上説明し続けてきた自分の活動を、
きちんと評価しなくては、と思っています。


+++


夢を織り込む~~ティナラク織とティボリ民族
ティナラク織の会「カフティ」 森田奈美


フィリピンと聞いて思い浮かぶものはなんでしょう?
バナナやパイナップルなどのトロピカルフルーツ、セブ島などのリゾート、
またはみなさんの周りに住んでるフィリピン人でしょうか。
フィリピンの首都マニラは、成田から約4時間、7千の島に8千の言葉がある、
といわれる、たくさんの島々で構成された多民族国家です。
330年以上のスペイン統治のあとアメリカの44年間、日本の4年間の統治を経て、
独立国家となりました。

今回ご紹介する織物 『ティナラク織』 は、フィリピンの芭蕉布です。
フィリピンで2番目に大きく、一番南に位置するミンダナオ島、その南部の
山間に暮らす、ティボリ民族が何百年も受け継いできた織物で、
私はフィリピンを代表する (国宝級ともいえる) 伝統織物だと思っております。
フィリピンには他にも 『ピーニャ』 と呼ばれる、パイナップルの葉の繊維で
できた素晴らしい織物がありますが、それはスペイン時代に持ち込まれたという説があり、
ティナラク織が現地に現存している最古の伝統織物だと思われます。

繊維の取れる芭蕉は糸芭蕉、英語ではアバカと呼ばれ、姿かたちはバナナとそっくり
(バナナは実芭蕉)です。
戦前は、この丈夫な繊維がロープなど多様なものに使われていたため、
日本から移住した人たちが、かなりの広い土地にプランテーションを作っていました。
現在は、日本のお札の材料にも使われています。

さて、ミンダナオには31の先住民族が暮らしているといわれ、そのうち
この糸芭蕉の織物を作ってきた民族は、わたしの知るところで3民族あります。
バゴボ民族の 『シナマイ』、ビラアン民族の 『タビ』、そしてティボリ民族の
『ティナラク』 です。
『シナマイ』 は、商業ベースに巻き込まれ、伝統的に作っているところは
ほとんどない、と聞きました。
泥染めや虫染め、草木染などしていたようですが、今は人工染料を使ったものが
多少、都市の土産物屋に並んでいるのを見かけます。
『タビ』 は、現地の NGO が復活させようとがんばっているのを見学に行きましたが、
高齢の織手さんたちが5人、一生懸命織っていたのみで、次の世代への継承までは
至っていないということでした。

そして私が15年ちかく関わり続けているティボリ民族の 『ティナラク』は、
60年代から入ってきたキリスト教宣教師団の、文化継承プログラム等もあり、
今日までなんとか続いています。
少数民族であるティボリは、統計によって6万人とも8万人ともいわれ、
かなり広い山々に散在しているのですが、織物が残っている地域はほんの少しで、
私の推定では織手さんは150人前後くらいと思われます。
その中でも一級といわれる織手さんは、そのうちの20人くらいでしょうか。
ティボリ民族にはカレンダーもないので、本人たちにも何百年続いている
織物なのかわかりません。

芭蕉にもいろんな種類がありますが、現地で 「ギンダナオ」、ティボリ語で
「クドゥゴン・リブン」 という名で呼ばれる芭蕉が、織物に向いている
ということで、織手さんたちはその繊維を買い求めます
(芭蕉の畑を持っている織手さんは、ほとんどいません)。
困難なのは、芭蕉の畑を持ってる人が、きちんと種類によって選別してくれなかったり、
質の悪いものを混ぜたりと、織物や織手さんたちのことを、考えてくれてる
わけではないことです。
芭蕉は現在 「エコ」 な材料として、インテリアや服飾関連、化粧品などにも
使われてるということで、外からかなりの需要があり、質にこだわるような
面倒な織物用の繊維を、きちんと供給してくれる生産者が、少ないのが悩みです。

ティナラク織の工程ですが、まず2メートルくらいに育った、芭蕉の幹の部分を
漉いて繊維にしたものの中から、白くて綺麗な繊維を選びます。
そして繊維を陰干しし、1本1本丈夫な部分のみを選んで結わいていきます。
縦糸にするものは1本取りで、横糸にするものは繋いだものをさらに2本取りに。
何千メートルの糸にしていく、地道な作業です。

糸が出来上がったら、縦糸用を機にかけるように、そして縦絣の柄のために
列と長さを揃えてゆきます。
黒・赤・きなりの3色で、さまざまな柄を織り上げるティナラク織。
始めは黒く染めるため、赤く染める部分ときなりの色を残す部分を、
染まらないように別糸でくくっていきます。
根元まで良く染まるように、くくった部分のギリギリまで広げる作業もします。

まず始めに黒に染めます。
黒の染料は「キナルム(ティボリ語)」と呼ばれる木の葉で、大きな臼に
枝ごと入れ、よく色が出るよう、杵でついてつぶします。
くくり終わった縦糸と横糸のすべてと、キナルムを大なべに入れ、
「3時間煮て3時間蒸して」、というのを30回も繰り返し、漆黒の黒に
染め上げます。
キナルムは3回ごとに新しいものに取り替えます。
始めは淡いブルーグレーの色が、回を重ねるごとに、深く濃く染まっていきます。
その後、現地の川や湖で獲れる貝を燃やして灰にした粉「ロホ(ティボリ語)」
と呼ばれるものを混ぜた熱湯でも煮込みます。
色止めだろうとは思うのですが、織手さんたちは
「繊維をしなやかにするため」 と言います。

次は赤です。
まず先ほどの縦糸の、赤く染める部分のくくった糸をはずします。
オレンジ色の美しい 「ロコ(ティボリ語)」 の木の根を取って、
芯の硬い部分をとりのぞき、芭蕉糸の赤く染める部分に、こすり付けます。
手もオレンジ色に染まりながらの作業、繊維と染料を一緒に大なべに入れ、
2時間ほど煮てロコを足しながらまた2時間。
ロコの根の年齢、分量によって、また煮込む時間で、赤は毎回染め上がりが違います。

赤が染まったら、きなりのまま残す部分にくくった糸をほどき、
機にかけていきます。
機は原始機(現地でバックストラップ)と呼ばれる、床に座って
自分の足と腰とでしっかりつっぱりながら織る、かなり力強い織り方です。
しっかり目の詰まった美しい柄が崩れないよう、いい織物に仕上げることが
できるようになるまで、かなりの年月がかかるといわれています。
日中は乾燥して繊維が切れやすいため、朝夕の湿度の高い時間に
織ることが多いです。
柄によっては、織ってる期間中、夫と一緒に寝てはいけない、とか、
鶏肉の手羽先を食べてはいけない、とか、いろいろ言い伝えがあります。
守らないと、織物の始祖姫が柄を崩してしまうとか。
昔の織手さんたちは、しっかり守っていましたが、最近の若い織手さんたちは、
言い伝えすら知らない世代も多くなってきました。

織り上げて機からはずした織物は、川で洗い、自然のスピリットにさらします。
陰干しし、半乾きになったら木の棒で布の全面をたたき、薄くしなやかにします。
2メートルごとにあるはずの結わき目も、この作業のおかげで、
ほとんどわからなく見えなくなります。
そしてユニークなのは、宝貝での 『なめし』。
ときに竹のしなりなども利用して、すごい力で全面をなめします。
宝貝が熱くて持てなくなるほど、繰り返し繰り返しなめしていく大変な仕事が、
艶やかな光沢の美しい織物に仕上げます。
最後に、繊維のケバなどをとりのぞいて、出来上がりです。

始めの繊維を結んで長い糸にするところから最後まで、約3ヶ月かかります。
織物は世界中で歴史的に、資本家が管理しやすくするため、分業がどんどん
進められてきました。
が、このティナラク織は現在も、始めから最後までの全工程を、
ひとりの織手さんが手がける、希少価値の高い織物といえます。
文字を持たなかった民族ゆえ、母から娘へと受け継がれてきた柄は、
すべて織手さんの頭の中に入っています。
また、熟練した織手さんたちの夢の中には、織物の始祖姫が現れ、
新しい柄を伝えるともいわれ、現地でも
「夢を織る人(Dream Weavers)」 と言われています。

そんな素晴らしい織物であるにも関わらず現地では、セブやマニラの
土産物中間業者が徹底的に買い叩き、織手さんたちは、材料費にしか
ならないような金額で売るしかないようなことが、しばしば起きています。
この地域では昔、森の恵みとともに豊かに暮らしていたのですが、日本を含む
諸外国の森林伐採によって、ミンダナオ島全土で80%以上の森が、失われました。
それとともに、貨幣経済の波にも飲まれ貧困におちいり、今日食べる
ごはんにも事欠く生活になってしまったのです。
どんな 「はした金」 でも、目の前に現金を見せられたら、
売る決心をしてしまう織手さんがいっぱいいます。
それほど経済的に厳しい状況です。
また、苦労の報われない織手さんたちを見ている子どもたちは、こんな大変な織物、
継ぎたい・学びたいとは思えなくなってきています。

私は現地に暮らす中で、ずっと織手さんたちの日々を追いかけ、
全工程を見させてもらい、なんとかこの民族の誇りである織物が継続できる道を、
と考え、手持ちで持ち帰る活動を開始しました。
少しでも多くの人に購入していただき、織手さんたちがいい仕事を
し続けられる環境を、支えていきたいと思っています。
現在は、「いい仕事をしたらいい値段で買うから」、と約束し、
織り上がったすべての織物を、買い上げています。

私たち日本の生活は、スイッチひとつでお湯も出る、電気もつく。
同じ時代に生きているのに、かたやティボリの人たちは、子どもたちが
水汲みをし、バケツ1杯の水でシャワーを済ませ、灯油ランプの
小さな灯りで暮らしている。
私はこの15年のうち半分くらいを、現地で一緒に暮らしてきたので、
便利じゃない生活に、どれだけ時間がかかるかを、しみじみ体験してきました。
家財道具をほとんど持たない人、替えの服を持たない人、今日食べる
ごはんもない人… 選択の余地がない、という状況は、本当にきついです。
働いたら、いい仕事をしたらちゃんと報われる、という体験を、せめて
ほんの一握りの織手さんたちではあっても経験してもらいたい、なんとか
少しでもアンフェアな状況を変えたい、という思いで活動をしています。

そんな厳しい貧困の中でも、かろうじて残ってきた伝統のティナラク織。
しっかりした風合い、繊維らしいさらりとした肌触りを、ぜひたくさんの人に
触れて楽しんでもらいたい。
自然の恵み100%で出来ているこの織物を通して、自然とともに生きている人たちの
知恵と歴史を感じられることは、本当にありがたく素晴らしいことだと思います。
ティナラク織をはじめ、世界のあちこちで紡がれている美しい手仕事が、
大切に受け継がれていくことを心から願いつつ、これからも自分に出来る
活動をし続けます。
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コメント
無題
読みました。素晴らしい事ですね。
【2017/06/14 11:12】 NAME[西 武彦 ] WEBLINK[] EDIT[]
無題
読みました。素晴らしい事ですね 行って実際に見てみたいですね。
【2017/06/14 11:15】 NAME[西 武彦 ] WEBLINK[] EDIT[]
西武彦さま
お読みくださり、ありがとうございます。
ティナラク織の素晴らしさを、現地で直接感じていただける機会を、また持てたらいいな、と思っています。
過去には何回か、現地訪問ツアーを開催しました。
現在、ミンダナオ島は、戒厳令が敷かれていますが、近いうちにまた、自由に行けるようになると思われます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
【2017/06/14 18:14】 NAME[なみちん] WEBLINK[] EDIT[]


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